亡骸

ヒト日記 081-100
まじめな駄文

亡骸

猫がいた。

道路の真中に。

静かに横たわっていた。

さっきから降り始めた雪が、猫のからだの上に落ちては融けて行く。
濡れた被毛は二度と乾くことがないだろう。

横たわる小さな猫を、通り過ぎる車は避けながら走って行く。
確かに「そこ」にいるのに、猫の周りだけは時間が止まってしまったかのように、
現実と交わる事を拒否しているように見えた。

 

猫を撥ねた車は、今も街を走っているのだろう。
昨日の事など、なかった事にして。
「人間じゃなくてよかった」と、胸を撫で下ろしたりしたのだろうか。
横たわる猫を振り返ったりしたのだろうか。

「車は悪くない」

そんな事はわかっている。
ただ普通に道路を走っていただけだ。
そんな事はわかっている。

ただ

そこに取り残された猫には、最早言い訳をする機会さえ与えられてはいないのだ。

人間ならば、どんな状態であっても必ず病院に運ばれるだろう。
車の前に飛び出して来た猫は、病院に運ばれる事もなく
冷たい雪に被毛を濡らしながら、最後の瞬間を待つだけだ。

やがて誰かの通報によって、市の職員がやって来るだろう。
小さな猫に手を合わせ、猫を毛布で包み、車の荷台に乗せて運んで行くだろう。
短い一生を道路で終えた小さな猫を知る人はほとんどいない。
偶然横を通り過ぎた人達の心からもやがて風化されて行く。

「誰も悪くない」

私は一所懸命自分に言い聞かせる。
道路で横たわる猫を見る度に、私は必死になって自分に言い訳をする。
「誰も悪くないのだ」と。

神さま。
あの小さな猫は、迷わずあなたの元へ辿り着いただろうか。
雪で濡れた被毛を、一所懸命舐めて乾かしているだろうか。

願わくば、天国という場所が存在し、暖かいベッドで眠れる事を。